為末大学

皆すごいものを見たいと思うが、すごいものは飽きるのも一瞬だ。もはやAI囲碁の「Alpha Go(アルファー碁)」に注目する人は少なくなった。人が飽きずに夢中になるのは、人間同士の競争であり、その競争に夢中になるのは共感があるからだ。共感を生むには、どこかしら自分自身を投影したものである必要がある。あまりに距離ができるとすごいとは思うけれども、何度も見たいとは思わなくなってしまい、そうなればスポーツの商業的価値も、もしかしたら根源的価値も失われてしまうかもしれない。 以前、私たちは人類はどこまで行けるのだろうとワクワクしながらスポーツを見ていた。ところが科学技術が発展すると、能力開発のためにさまざまなことが可能になった。現在のドーピングはまだかわいいもので、将来的には遺伝子ドーピング、デザイナーベイビーの誕生にどう対処するかが議論されている。 人類はどこまで行けるだろうという問いから、人類はどこまで行ってもいいのだろうかという問いに変わりつつある。人為的なものと、自然なものをどう捉えるのかが重要になってくると私は考えている。